広津和郎の作品の特徴及び評価。おすすめ代表作4選

出典:[amazon]作家の自伝 (65) (シリーズ・人間図書館)

小説家としてだけではなく、評論家、翻訳家など、文芸の世界で幅広く活躍していた広津和郎。「散文精神」「散文芸術」という言葉を掲げ、人間の感情や人生のすぐ傍らにある文学を常に目指した彼の作品は、今でも悩める多くの読者に寄り添ってくれます。

また、広津和郎は戦後、「松川事件」を通じて「冤罪」という言葉を日本に広めました。その文章からはジャーナリストとはまた異なる客観的な視野や、自分の信じる正しいことのために行動する気概を感じることもできます。

そんな広津和郎の作品にはどのようなものがあるのでしょうか?今回は広津和郎の作品の特徴やおすすめ代表作をご紹介します。

広津和郎の作品の特徴及び評価について

広津和郎の源流には、やはり父親である小説家、広津柳浪の影響があります。広津柳浪は尾崎紅葉が中心となって立ち上げた文学結社、硯友社の一員であり、永井荷風が弟子入りを志願したほどの文才の持ち主でした。広津和郎は父親を通して幼い頃から多くの文筆家と接する中で、文学的な感性やものの見方を養ってきたと言っても良いでしょう。

広津和郎の視点は客観的であり、常に時代を先駆けた観点の作品を発表する作家でもありました。小説家としてではなく評論家として先に有名になったことでも、文壇でその視点の鋭さを高く評価されていたことがわかります。小説でも、私小説風のものや周囲の人間を観察して書いた作品の評価が高いといえます。

麻布中学から早稲田大学へ進学した都会のエリートでありつつ、極貧の家族を支えるために筆をとった人でもあったので、作品の根底には弱いものや自分の愛するものへの情が垣間見えます。「散文精神」「散文芸術」という言葉を掲げていた所以でもあるでしょう。

1963年、自伝的な文壇の回顧録である「年月のあしおと」で野間文芸賞と毎日出版文化賞を受賞しています。また、戦前から戦後まもなくにかけて、何度も小説作品を映画化されています。

広津和郎おすすめ代表作4選

広津和郎のおすすめ作品をご紹介します。小説と評論、また随筆のような回想録も発表している作家なので、幅広いジャンルのものを集めてみました。きっとお気に入りの一作が見つかると思いますよ。

年月のあしおと

1963年、野間文芸賞と毎日出版文化賞をW受賞した広津和郎の代表作です。「正編」に続いて「続編」も発表しています。

幼い頃から文壇に親しんできた広津和郎ならではの長編文壇回顧録で、芥川龍之介や宇野浩二など、交友関係のあった作家たちが多く登場します。文学の世界で活躍した人物たちの素顔を楽しむことができる随想だと言えるでしょう。場所や値段、会話の内容についても細かく具体的に書いているため、戦前の都会の風俗を知りたい方にもおすすめの作品です。

長い作品ですが物語ではないので、気になる時代が登場する部分だけでも十分面白く読めます。大正時代の華やかで波乱万丈な人間関係が読みたい方は「正編」の後半から、同じ戦前でも太平洋戦争初期の頃の文壇に興味のある方は「続編」の前半から試しに読んでみると良いでしょう。

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神経病時代

1917年に発表された短編小説です。評論で先に名前を知られていた広津和郎を「小説家」としても世間に認知させた作品です。

広津和郎がそうであったように、新聞社に勤める青年を主人公として設定しています。また、主人公の性格や悩みも広津和郎自身が抱いたものが大きく反映されています。私小説的な作品ですね。

面白いのはこの作品がただの私小説におさまっていないところです。広津和郎は一人の青年を通して、同年代の若いインテリたちに共通する弱さも描こうとしました。その弱さを作中では「性格破綻者」となかなか刺激の強いフレーズで呼んでいます。広津和郎の客観的で広い視点の活かされた意欲作です。

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散文精神について

広津和郎が掲げ続けていた「散文精神」についてまとめた評論集です。

元々は『広津和郎評論集 散文精神について』というタイトルで1947年に出版されましたが、2018年に新たな文章を複数追加して『散文精神について』というタイトルで再出版されました。

広津和郎の文学的な考え方を知るためには絶対に読んでおきたい1冊です。また、「散文精神」が掲げられた当時の世相がどのようなもので、どうしてそういう考えを広津和郎が支持するようになったのか、についてもよくわかります。

現代はこの「散文精神」が叫ばれた時代に近い世相であるとも言われています。その意味でも、今もう一度読んでおきたい文章です。

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新編 同時代の作家たち

1951年に発表された「同時代の作家たち」をもとに岩波文庫で出版された作品です。

広津和郎と交友関係のあった約15人の作家について、思い出やエピソードを交えて語っています。「年月のあしおと」と時代や雰囲気が重複していますが、「年月のあしおと」が文壇全体の回想録であるのに対し、「新編 同時代の作家たち」では、もっと作家一人ひとりの魅力が伝わってくる書き方になっています。短い人物伝とも言えるでしょう。

芥川龍之介の死や志賀直哉の一面についても具体的に語っているので、作家論に興味を持っている方にもおすすめの1冊です。

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まとめ

いかがでしたか?今回は広津和郎の作品の特徴やおすすめ作品をご紹介しました。

広津和郎は生涯を通じて鋭く客観的な視野で物事や人物を見つめ、それをもとに作品を残した作家でした。その冷静なものの見方の中にも、正義感や、周囲の人々への愛情など一本筋の通った強さが感じられます。

広津和郎は現代では「松川事件」でよく知られています。「松川事件」での活躍が有名になりすぎて、それ以外の文学的功績が埋もれてしまっている傾向にすらあります。

しかし、「松川事件」関係以外の小説や評論も高いクオリティのものが多く存在します。令和の今読んでも、広津和郎の斬新な視点に驚かされますよ。

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>>広津和郎ってどんな人?その生涯は?性格を物語る逸話や死因は?

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