福永武彦の作品の特徴及び評価。おすすめ代表作6選

出典:[amazon]福永武彦 新潮日本文学アルバム〈50〉

福永武彦の特徴及び評価

福永武彦は、繊細な感受性と理知的な文体が特徴的な作家です。人間の心理の奥深くや愛と死にまつわる作品を多く残し、代表作として『草の花』『死の島』などの小説が挙げられます。
画家・ゴーギャンの人生を追った『ゴーギャンの世界』で毎日出版文化賞、2人の女性の心中と原水爆を描いた『死の島』で日本文学大賞を受賞しました。

福永武彦のおすすめ代表作6選

草の花

~サナトリウムを舞台とした、ある青年の愛と死の物語~

結核療養中の「私」は、別のサナトリウムから転院してきた青年・汐見と親しくなります。汐見は穏やかな性格で、病状も落ち着いているように見えたのですが、以前のサナトリウムで自殺をはかったため転院してきたのだと噂されていました。ある日、汐見は「私」に2冊のノートを託し、難しい外科手術に志願します。成功する見込みの少ない、自殺行為ともいえる手術でした。汐見の死後、「私」に残されたノートに記されていたのは、同性の友人との失恋と死別、そしてその友人の妹との失恋と別れ……。途方もない孤独感と強すぎる感受性、美しい文章に胸が締め付けられます。福永武彦の実体験をもとにした作品です。

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死の島

~彼女たちは、なぜ心中を選んだのか。若い男女の愛と死、原水爆の悲惨さを訴える作品~

若き編集者・相馬鼎には、仲の良い2人の女性がいました。気難しい画家・素子と、優しく家庭的な綾子。素子と綾子はどちらも過去があるようで、それぞれ実家とは縁を切り、2人で生活していました。ある日、鼎のもとに2人が広島で心中したという知らせが舞い込みます。2人の暮らす家の大家の代わりに、東京から広島まで駆け付けた鼎が見たものは……。1954年1月の東京・広島を舞台に、いくつもの結末が用意された長編小説です。

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廃市

~灰に帰した町の思い出。若かった「あの夏」の苦さを描いた短編小説~

新聞を読んでいた「僕」は、そこに聞き覚えのある町の名前を見つけます。火災で燃え尽きたというその町は、「僕」が10年前、大学の卒業論文を書くために避暑に訪れた場所でした。運河が印象的な水の町と、その町の旧家に暮らす美しい姉妹。ある日、姉の夫とその愛人が心中し、その通夜の席で姉妹喧嘩がはじまります。姉の夫が愛していたのは、私でも愛人でもなく、あなた(妹)だったのだと声を荒らげる姉。若かった「僕」が目撃した愛の顛末と、いつの間にか忘れてしまった町の風景が、どこか懐かしい作品です。

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深淵

~本当に飢えていたのは誰だったのか。サスペンス小説のような味わい~

15年間をサナトリウムの病床で過ごした、敬虔なクリスチャンの「女」。不遇な生い立ちから常に飢えていた「男」。この二人が出会い、「愛」というには歪な、不協和音のような共同生活がはじまります。男女それぞれの視点での物語が交互に繰り広げられるのですが、男と女の見ているものが次第にずれていって……。物語の最後にたどり着くと、もう一度最初から読み返したくなる作品です。生きることと死ぬこと、信仰や飢えについて、考えずにはいられなくなります。

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風のかたみ

~「恋をしてなにが悪い」今昔物語をもとにした王朝ロマン~

田舎からあこがれの京にやってきた、大伴の次郎信親。彼は美貌の姫君・萩姫を恋い慕っています。しかし萩姫が思いを寄せるのは、貴族の息子・安麻呂でした。
一途な主人公・大伴の次郎信親や影のある美女・萩姫、凛とした町娘の楓など、人物造形がはっきりしているため、王朝ものならではのとっつきにくさが薄れている作品です。福永武彦の持ち味である理知的な文章はそのままに、エンターテインメント性も兼ね備えています。平安時代や陰陽師、もののけが好きな方にもおすすめです。

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完全犯罪

~福永武彦の友人?幻の作家・加田伶太郎の推理小説~

『完全犯罪』は、福永武彦が加田伶太郎名義で発表した推理小説です。のちに、推理小説をあつめた『加田伶太郎全集』が刊行されています。加田伶太郎(かだれいたろう)は「だれだろうか」のアナグラムであり、福永武彦の別名義なのですが、『加田伶太郎全集』の序文は、大学でフランス語を教えている貧弱な教師・加田伶太郎に依頼され、売れない純文学作家・福永武彦が書いた、という体になっています。『完全犯罪』の名探偵・伊丹英典(Itami Eiten)は名探偵(meitantei)のアナグラムであるなど、物語の内外問わず、福永武彦の遊び心が存分に発揮された作品です。

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まとめ

福永武彦の代表作ともいえる『草の花』から、別名義での作品『完全犯罪』まで、おすすめの6作品をご紹介しました。震えるような感受性が印象的な『草の花』、エンターテインメント性も兼ね備えた王朝ロマン『風のかたみ』、そして遊び心満載の『完全犯罪』。同一作家によるものとは思えないくらい個性豊かな作品ばかりですが、理知的なまなざしは共通しています。美しい物語に浸りたい日は『草の花』、どっぷりと濃密な読書体験をしたい日は『死の島』、知的な言葉遊びを楽しみたい日は『完全犯罪』など、その日の気分に合わせて作品を選ぶのも良いかもしれません。

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>>福永武彦ってどんな人?その生涯や家族は?性格を物語るエピソードや死因は?

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