石川淳の作品の特徴及び評価。おすすめ代表作7選

出典:[amazon]最後の文人 石川淳の世界 (集英社新書)

石川淳は、第二次世界大戦後から登場した坂口安吾や太宰治と同じく無頼派と呼ばれた作家で、88歳という長い生涯の中で、小説や評論、エッセイなど幅広い作品を世に出し続けました。今回は石川淳の作品の特徴やおすすめ代表作をご紹介します。

石川淳の作品の特徴及び評価

ここでは石川淳の作品の特徴や評価についてみていきます。

石川淳の作品の特徴

石川淳の作品の特徴は美しい文章、そして幼い頃から培ってきた和漢洋の知識の素養が数々の作品に織り交ぜられていることが挙げられます。伝奇的なファンタジーの要素のある作品も多く、1970年代にはラテンアメリカ文学のマジック・リアリズムという雰囲気が夢や幻想を織り交ぜる石川淳の作品に見えるとして、作品の再刊がされるなどの社会的ブームが起きました。文体は一文が長い「饒舌体」と呼ばれる書き方が特徴とされ、情景が浮かぶような表現も印象的です。

また、戦中に発表した「マルスの歌」が反軍国調だとして発禁処分になるなど、社会への批判的なスタンスをとっており、戦後からは太宰治、坂口安吾、織田作之助らと共に「無頼派」と呼ばれ、現代社会への批判精神が見えます。

無頼派の作家たちは昭和10年代にはすでに作家としての地位を確保しており、戦中の抑圧を経て反社会、反権威的、反秩序的な姿勢が戦後に噴き出したと言われています。石川淳は無頼派の中でも太宰や坂口、織田のような生活が退廃的な作家ではなく、在来のリアリズムの否定から新たな文学的手法の追求を続けた作家でした。

無頼派は、もともと「新戯作派」と呼ばれ、坂口安吾が漢文学や和歌などの正当とされる文学に反し、洒落や滑稽、趣向を基調とした江戸の戯作の精神を復活させようとしたことから始まり、旧来の私小説的なリアリズムやさらに既成文学全般の批判へと繋がっていきました。

石川淳の作品の評価

石川淳は同じく無頼派の太宰治や織田作之助よりはあまり有名ではありませんが、短命だった彼らとは対照的に、長い生涯の中で多くの作品を生み出しました。

受賞作品も多く、1937年の『普賢』で芥川賞を受賞したことに始まり、『紫苑物語』で芸術奨文部大臣賞、『江戸文學掌記』で読売文学賞、『石川淳選集』で朝日賞を受賞したほか、長年の作家としての業績により日本芸術院賞を受賞するなど様々な賞を受賞しています。このことからも石川淳の評価の高さが伺えます。

石川淳おすすめ代表作7選

ここでは石川淳のおすすめ代表作をご紹介します。

普賢・佳人

芥川賞受賞作の「普賢」は、中世フランスの女流詩人の伝記を書く主人公と友人庵文蔵、文蔵の妹ユカリが日常の様々な事件に巻き込まれ、その中に身を置く主人公を饒舌な語り口で描いている作品です。主人公は、ジャンヌ・ダルクの伝記を書いたクリスティヌ・ピザンの伝記を書きたいと思っていますが、ジャンヌ・ダルクの顔が長年思い続けているユカリと重なってしまいます。ユカリの兄は酒浸りで、かつユカリは非合法活動をしている青年の元に家出しています。
様々な葛藤により主人公は筆が進まずに苦悩する様が伝わるとともに、当時の日本の底辺の世界が垣間見られる作品でもあります。

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森鴎外

この作品は石川淳が戦時下に執筆した作品であり、個人的偏りのある作品評という見方が強い賛否両論ある森鴎外論です。石川淳は「渋江抽斎」や「井澤蘭軒」が大好きで「山椒大夫」や「大塩平八郎」については酷評しています。また石川淳が中学生の時にたまたま電車で森鴎外を見つけたエピソードや当時の文壇についても書いてあり、石川淳が森鴎外についてどう考えていたのかが知れる作品です。

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焼跡のイエス

「焼跡のイエス」は戦後の上野の闇市を舞台にした短編です。主人公の「わたし」がみすぼらしい姿の少年にイエスを見つける瞬間を目にするという話で、聖なるものへの石川淳独特の美学が感じられます。また現代ではなかなか想像がつきにくい、戦後のアメ横のリアルな姿が伝わってきます。

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紫苑物語

日本語のリズムの美しさと力強さの溢れた文章が読者を惹きつける傑作と言われる作品です。舞台は中世の日本で、主人公宗頼は狩りに明け暮れ弓の名手となり、宗頼に仇をうつために美女に化けた狐とも結婚。宗頼はたくさんの人を殺すようになり、その跡には紫の花が植えられました。残酷かつ美しい情景描写が特徴です。

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至福千年

幕末の開国と攘夷に揺れる江戸を舞台に、千年王国建設を企てる隠れキリシタンたちの企みや呪術による争いが描かれています。流れるような美しい文体で印象深いラストまで持っていくところや、江戸の街並みの描写にも注目です。

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狂風記上下

石川淳が70歳を超えてから10年もの歳月をかけて書いた大作です。ゴミ捨て場「裾野」に住まう青年マゴが長野主膳の末裔にしてリグナイト葬儀社を経営するヒメと出会い、物語は始まっていきます。ヒメ一族は怨霊の化身といい、富と権力の亡者どもに熾烈な戦いを開始する伝奇的なストーリーです。上下巻があるので、かなり読み通すのに根気のいる作品ですが、物語に引き込まれていくはずです。挑戦してみたい方はぜひ。

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1953年に発表されたこの作品は、現実の秩序に対して戦う人間の姿をテーマに戦後の平和運動に絡めて書かれており、当時石川自身も発禁処分などと戦っていました。内容はたばこの専売公社に勤めていた国助がクビになり、その後の出会いから工場に勤め始めますが、工場では「明日語」という言語が使われていて、明日起こる出来事を予告した新聞が刷られていました。まるでファンタジーのような話のなかに力強い思いが込められた話です。

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まとめ

石川淳は太宰治など他の無頼派の作家よりも知名度は低いかもしれませんが、当時の時代の様子が知れたり、純粋にファンタジーが楽しめたり、美しい文章を味わったりと、様々な読み方ができる作家でもあります。作品数も多いですが短編もありますので、気になるものからぜひ、挑戦してみてはいかがでしょうか?

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