佐藤春夫の作品の特徴及び評価。おすすめ代表作7選

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明治・大正・昭和にかけて活躍した佐藤春夫。その作品の範囲は多岐にわたり、小説、詩人、作詞など数多くの作品を世に送り出しました。また後進の育成にも力を注ぎ、井伏鱒二や太宰治、遠藤周作、中村真一郎などに影響を与えました。そんな佐藤春夫の作品にはどのようなものがあるのでしょうか。今回は、佐藤春夫の作品の特徴やおすすめ代表作をご紹介します。

佐藤春夫の作品の特徴や評価

佐藤春夫は詩人・作家であり、文芸評論から児童文学、推理小説まで書いた多才な作家として知られ、文壇において大きな役割を果たしました。佐藤春夫のもとには井伏鱒二や太宰治、三島由紀夫、遠藤周作など20世紀の日本の文壇を代表する人物が訪れ、佐藤から多くを学んだそうです。
佐藤春生は、耽美派に属しているとされています。耽美派とは「美」を最高の価値基準に置き、美の享受と創造を目指した文学の流派です。雑誌「スバル」や「三田文学」系の作家が主に耽美派と呼ばれています。「田園の憂鬱」で文壇で評価され、「秋刀魚の歌」では妻・千代との悲恋が、悲しくも美しく表現されています。

また中国文学に大きな影響を受け、魯迅の「故郷」を手がけた翻訳者としても活躍しました。佐藤春生本人は「支那趣味の愛好家」と謙遜していたそうですが、その業績は、のちの中国文学者・竹内好(たけうち・よしみ)に大きな影響を与えています。

文壇の重鎮としてその地位を確立した佐藤春夫は、芥川賞の選考委員を務め、1960年(昭和35)には文化勲章を受賞しています。

佐藤春夫の業績を残すため、和歌山県新宮市には佐藤春夫記念館が建てられています。

田園の憂鬱

1919年(大正8)に出版された佐藤春夫の代表作です。「病める薔薇(そうび)」という作品を改訂し発表しました。佐藤春夫の横浜での実体験を元に執筆されており、田園生活での鬱々とした心象風景を描いた作品です。当時の佐藤は、精神的疲労により都会から離れた田舎暮らしを決意しますが、療養目的で移った田舎暮らしも合わなかったようです。
もとのタイトルであった「病める薔薇」とは作中で一体何を示しているのでしょうか・・・。一読の価値のある作品です。

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殉情詩集

1921年(大正10)、新潮社から出版されました。佐藤春生が15年間で書き溜めた100編の詩の中から23編が選ばれた処女詩集です。谷崎潤一郎の妻・千代への悲恋をあらわした「水辺月夜の歌」や「或るとき人に与えて」などが収められています。また、少年時代の恋心を歌った作品もあり、人間心理の繊細さを存分に表現しています。

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小説智恵子抄

高村光太郎の「智恵子抄」を元に書かれた作品です。佐藤春夫は高村光太郎のアトリエに通い、自画像を書いてもらうほどの関係でした。そんな佐藤の目で見た、高村光太郎・智恵子夫妻の姿が描かれた作品です。光太郎と智恵子の出会い、恋愛、結婚生活、そして智恵子の自殺未遂。佐藤から見た、2人の生活はどのようなものだったのでしょうか。

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わんぱく時代

明治時代の、佐藤春夫が子供の頃の体験を元に書かれた、回顧録的作品です。作品の中では、当時の子供たちの遊びや、主人公の「恋愛」などが描かれ、少年が大人になる過程が色彩豊かに表現されています。またこの作品を原作とした「野ゆき山ゆき海べゆき」という映画も制作されています。

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女誡扇奇譚(じょかいせんきたん)

谷崎潤一郎の「途上」や芥川龍之介の「藪の中」などに代表される、日本文学における「推理小説」の草分け的作品です。1925年に発表され、江戸川乱歩や横溝正史に影響を与えたと言われています。佐藤春夫は、この作品以外にも「指紋」という作品で同様の試みをしており、執筆ジャンルの広さをうかがい知ることができます。

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井伏鱒二は悪人なる説

1948年(昭和23)に「作品」第2号に書かれたエッセイです。5分程度で読める文章ですが、太宰治が最後に書き残した「井伏鱒二は悪人なり」を佐藤春夫なりに解釈した興味深いエッセイとなっています。佐藤春夫は井伏の先生であり、井伏は太宰の先生でした。そうした関係性から見た太宰の死は一体どのように見えたのでしょうか・・・。

>>[青空文庫]井伏鱒二は悪人なるの説

おもちゃの蝙蝠(こうもり)

1922年(大正11)、雑誌「童話」に掲載された短編童話です。あるところに「一匹のゼンマイ仕掛けの蝙蝠」がいました。ある夜、ゼンマイ仕掛けの蝙蝠は、自分を作った職人の元に行き「天が高うてのぼれない」と言います。強いゼンマイに取り替えてもらった蝙蝠は、大空高く飛んでいきますが、次の日の夕方に再び職人の元を訪れ「天が高うてのぼれない」と懇願します。蝙蝠の願いを叶えるために、再度ゼンマイを交換しますが・・・。この作品は子供用の童話として書かれましたが、多くの解釈がなされている奥深い作品となっています。

まとめ

いかがでしたか?今回は佐藤春夫の作品の特徴やおすすめ代表作をご紹介しました。今回ご紹介した作品以外にも、佐藤春夫はさまざまな作品を残しています。青空文庫に多くの作品がありますので、繊細さと鋭敏な目で世界を見つめた佐藤春生の作品にぜひ一度触れてみてはいかがでしょうか。

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>>佐藤春夫ってどんな人?その生涯や妻は?性格を物語るエピソードや死因は?

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