谷崎潤一郎の作品の特徴や評価。おすすめ代表作5選

出典:[amazon]決定版 谷崎潤一郎全集 日本文学名作全集

「春琴抄」や「細雪」、そして「源氏物語」の現代語訳などさまざまな分野を執筆した谷崎潤一郎(以下谷崎)。谷崎の作風には耽美主義(たんびしゅぎ)やマゾヒズム的作品がある一方で、ミステリーやサスペンス、あるいは日本の伝統美を追求した美しい作品など、その文学的才能はあらゆる分野で表現されました。谷崎は生涯で多くの作品を残しましたが、今回はそんな谷崎作品の特徴や評価とおすすめ代表作をご紹介します。初期作品から中期、後期と選びましたので、関心のある作品をぜひ読んでみてください。

谷崎潤一郎の作品の特徴や評価

谷崎潤一郎の作品は、耽美主義やマゾヒズムへの傾倒、日本的美の追求などさまざまな角度から読み解くことができますが、そこに共通しているのは「美の追求」とされています。当時の文学界の主流は、島崎藤村や田山花袋に代表される、いわゆる「自然主義的」(私小説的)文学でしたが、谷崎の作風はそこには向かわず「美の探求」を目指しました。

そのなかにおいて、人間の持つ性愛や偏愛を極端なまでに浮き彫りにすることにより物語を構築し、一つの「美の箱庭」のような作品を生み出しました。「物語の構築」については芥川龍之介と論争を繰り広げています(「小説のスジ論」)。

また中期になると日本的美意識に転換し、文楽を用いた作品や、漢語や雅語(※1)を意識的に使用した作品を発表します。さらに谷崎は「源氏物語」の現代語訳に着手し、平安文学を現代に蘇らせました。多種多様なジャンルで知られる谷崎は、ミステリーやサスペンス作品の元祖に位置付けられており、江戸川乱歩は谷崎について「日本における海外に誇れる探偵小説家の一人」と評しています。また三島由紀夫も、森鴎外と並び谷崎の作品に大きな影響を受けた人物の1人です。

晩年はその業績が讃えられ、文化勲章や文化功労賞を受賞していますが、谷崎の晩年においてもっとも特筆すべきは「日本人初のノーベル文学賞のノミネート」でしょう。谷崎の作品は広く海外にも翻訳され、日本だけにとどまらず世界中から高い評価を受けています。

※1、雅語(がご・みやびご)とは、日常では使わないような趣のある、上品な言葉を意味します。

おすすめ代表作5選

谷崎潤一郎のおすすめ作品をご紹介します。どれも谷崎ワールドを代表する作品ですので、ぜひ一度読んでみてください。

細雪(ささめゆき)

谷崎潤一郎をもっとも代表する作品です。谷崎=「細雪」とイメージする人も多いのではないでしょうか。3番目の妻・松子の姉妹をモデルに書かれた作品で、谷崎の美的感覚を存分に味わえる傑作です。三島由紀夫を筆頭に多くの評論家からも賞賛され、近代日本文学を代表する作品とも言われています。
1943年に連載が開始されましたが、「内容が戦時にそぐわない」ことから軍部に連載を止められた経緯があります。しかし谷崎はそれでも作品を書き進め、GHQなどの検閲を乗り越えて1949年に「細雪 全巻」を刊行しました。この作品で谷崎は毎日出版文化賞と朝日文化賞を受賞しています。

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春琴抄(しゅんきんしょう)

1933年、「中央公論」に発表された作品です。谷崎の日本的美や江戸文化への傾倒を感じることができます。美しくも、プライドが高くわがままな盲目の娘・春琴と、それを世話する佐助との生活を綴る物語で、谷崎の耽美主義的傾向が遺憾無く発揮されています。作品に対する評価は大きく分かれ、評論家の小林秀雄は「特に心を動かされなかった」と論じた一方で、川端康成は「ただ嘆息するばかりの名作で、言葉がない」と評しました。
また、作中に春琴の顔に熱湯をかけられるシーンがありますが、「熱湯をかけた犯人は誰なのか?」という、「お湯かけ論」という論争があるそうです。

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蓼食う虫(たでくうむし)

1928年から1929年にかけて「大阪毎日新聞」と「東京日日新聞」(現・東京新聞)に連載された、全14章からなる長編小説です。谷崎中期の代表作とされています。愛情のない夫婦関係を背景に、谷崎の理想の女性像が描かれています。谷崎の日本的伝統美への転換点としても重要な位置を占める作品です。また、背景には有名な「小田原事件」があることも、この作品の魅力かもしれません。

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刺青(しせい)

1910年、第2次「新思潮」に発表された作品です。谷崎潤一郎の処女作であり、初期の代表作とされています。美女の体に自分の魂を表現したいと願う、元浮世絵職人・清吉の極端なまでのフェティシズムと、妖艶な作風が読む人の心を捉えます。念願の美女を見つけ、その背中に女郎蜘蛛(じょろうぐも)の刺青を彫った清吉の運命とは・・・。何度も映画化された非常に映像的な作品です。

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1956年、谷崎が70歳で発表した晩年の作品です。「読まれることを前提にして書かれた日記を、夫婦がお互いに盗み読む」という斬新なアイディアとその内容から、発表当時はスキャンダルとなりました。1956年、「中央公論」1月号に掲載され、5月から12月まで連載されました(全9話)。晩年の谷崎は世界的文学者として認知され、この作品は海外でも多数翻訳されています。また5度にわたって映画化もされています。

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まとめ

いかがでしたか?今回は谷崎潤一郎の作品の特徴やおすすめ代表作をご紹介しました。
時代ごとに選別しましたので、全部読んでいただくと谷崎作品の変遷が楽しめるのではないかと思います。なかには少し長い作品もありますが、少しずつ作品を味わいながら読んでいただければと思います。

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>>谷崎潤一郎ってどんな人?その生涯は?性格を物語るエピソードや死因は?

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