小林多喜二の作品の特徴及び評価。おすすめ代表作3選

出典:[amazon]『小林多喜二作品集・24作品⇒1冊』【蟹工船・関連作品収録】

代表作「蟹工船」の2度目の映画化によって、近年再び注目を集めている小林多喜二。多喜二は、日本のプロレタリアート文学を語る上で欠かすことのできない人物です。残念なことに、多喜二は29歳という若さでこの世を去りましたが、多喜二が残した作品は今もなお多くの人々に影響を与え続けています。多喜二は人生が短かった分、それほど多くの作品を残していませんが「蟹工船」以外にも重要な作品を執筆しています。そこで今回は、小林多喜二の作品の特徴と、おすすめ代表作をご紹介します。

小林多喜二の作品の特徴や評価

小林多喜二の作品は、尊敬していた志賀直哉の影響が強いといわれています。その影響とは、リアリズムの追求です。多喜二の作品を読むと、人物や風景描写がいかにも「生々しく」あるいは「生き生きと」感じるのはそのためかもしれません。

また、多喜二はプロレタリアート文学の代表人物とされているように、その作品には貧しい労働者や搾取された人物たちが多く登場します。多喜二自身も貧しい家庭に育ち、幼少の頃から苦労して育ったため、自然とそのような人々や境遇に関心を持つようになったのかもしれません。しかしそうした環境や運命に押し潰されそうになりながらも、懸命に立ち上がり、搾取する資本家に立ち向かう姿を描くところが、多喜二の作品の最大の特徴といえます。

多喜二が訴えた弱者の叫びは、時代を超えた現代でも読む人の心を捉えます。近年、「蟹工船」が再び映画化されたのも、「ブラック企業」という言葉が生まれる現代の風潮を代弁しているからではないでしょうか。そういう意味において、多喜二の作品はこれからも色褪せることなく読み継がれていく作品といえるでしょう。

プロレタリアート文学とは?

プロレタリアート文学という言葉が出てきますが、簡単に解説します。プロレタリアート文学とは1920年代から1930年代前半にかけて流行した文学で、多喜二の作品に見られるように、過酷な労働者の人生や生き様を描く作品が多いのが特徴です。この時代は、日本政府当局が反戦活動家などに対する監視の目を光らせていた時代で、多喜二の「蟹工船」も不敬罪として扱われ、後に多喜二は起訴されています。

多喜二以外にも、葉山嘉樹(よしき)や中野重治などがプロレタリアート文学者として知られており、社会民主主義や共産主義といった政治的立場を明確にしているのも特徴の1つとして挙げられます。

おすすめ代表作3選

小林多喜二のおすすめ作品をご紹介します。どれも単行本で売られていたり、青空文庫などで読める作品ですので、ぜひ読んでみてください。

蟹工船

1928年から1931年に雑誌「戦旗」で発表された作品です。小林多喜二を代表する作品であると同時に、プロレタリアート文学を象徴する作品でもあります。複数の外国語にも翻訳され、海外でも読まれている人気作です。1929年には「昭和4年の上半期の最高傑作」と評された作品ですが、発表された当時は検閲を逃れるために一部は伏字とされていたそうです。

給料は良いが人間以下の扱いをされる「蟹工船」での過酷な労働生活や不条理が描かれています。多喜二はこの作品のなかで「労働を搾取する資本主義の構造」を表現しました。作中に登場する労働者たちは、一体どのようにして地獄のような状況を打破したのでしょうか。そしてしだいに労働者が団結していく姿こそ、まさにプロレタリアート文学を象徴する場面と言えます。

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不在地主

1929年(昭和4年)、中央公論に発表された作品です。磯野小作争議という実際に起きた事件を元に書かれました。多喜二の他の作品と同様に、資本家によって搾取される労働者の社会構造を表現しています。

主人公・健は毎日過酷な労働の日々を送っていました。しかしある日、自分達の悲惨な毎日が、都会によって搾取されていることに気づきます。その現状を打破しようと立ち上がる健ですが、現実はなかなか思うように変わりません。やがて健は、村の「模範青年」として表彰されるまでになりますが、それこそが資本家による労働力を搾取するための「策略」だったのです。この状況を主人公・健はどのように解決していくのでしょうか。

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党生活者


「党生活者」は多喜二が晩年に生活していた「地下生活」のようすを描いた作品です。「倉田工業」で働く「私」は、軍需品を作る作業員で、工場内で党を組織しようと画策します。そんななか、かつての友人が当局に検挙されたこと耳にし、その影響で「私」は工場に出ることができなくなってしまいます。そこで、以前から「私」の活動に協力的だった笠原という女性とともに、残されたメンバーで反戦活動組織を作ろうとしますが、なかなか上手くいきません。

「党生活者」では、多喜二が実際に経験した苦難を元に書かれていますが、1933年に多喜二が他界してしまったため、未完の作品となっています。しかし作品を読むと、現代の「派遣切り」などにも通じる部分があり、当時の社会情勢と現代の状況を照らし合わせながら読むと、より楽しめる作品だと思います。

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まとめ

今回は小林多喜二の作品の特徴と代表作をご紹介しました。多喜二の作品は、一貫して虐げられている労働者の視点で書かれています。しかし作品の中で描かれている世界は決して辛い生活ばかりではなく、雄大な自然の美しさや登場人物の優しさなど、多喜二の内面性が表れています。労働者階級の悲劇という視点だけではなく、多喜二が表現した美しい世界に注目しながら読んでみると、違った面白さが見えてくるかもしれません。

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