葉山嘉樹の作品の特徴及び評価。おすすめ代表作3選

出典:[amazon]葉山嘉樹 名作全集: 日本文学作品全集(電子版) (葉山嘉樹文学研究会)

葉山嘉樹は、日本のプロレタリア文学において重要な役割を果たした作家です。葉山の人生をみてみると、まさに「波瀾万丈」という言葉がピッタリな人物です。獄中で執筆し、釈放後に世に発表した「セメント樽の中の手紙」で注目を浴びた葉山の作品にはどのような特徴があるのでしょうか。今回は、葉山嘉樹の作品の特徴や評価を、おすすめ作品も交えながらご紹介します。

葉山嘉樹の作品の特徴や評価

葉山の作品は、文学的作品でありながら葉山自身の実体験を元に書かれているのが特徴です。さまざまな仕事を転々とし、多くの過酷な労働者を目の当たりにした葉山の作品には、リアリズムの世界が展開されています。

獄中で執筆された「海に生くる人々」はまさにその代表的作品で、葉山自身が石炭船で働いた実体験から生み出されました。プロレタリア文学運動は日本の文学史においてそれほど長い活動はなかったものの、その中でも葉山の作品は、後のプロレタリア作家に大きな影響を与えています。葉山はプロレタリア文学会において、「労農芸術家連盟」を立ち上げ、葉山を尊敬していた小林多喜二も「労芸」に参加することとなりました。

葉山の作品を見てみると、プロレタリア文学ばかりではなく「怪奇小説」(ホラー)に分類される作品が見られるのも特徴です。怪奇小説といえば夢野久作を思い出しますが、夢野久作に劣らぬ「怖さ」のある作品が数多くあります。こうした作品を残した理由についてはわかりませんが、「人間味のある」怪奇小説も葉山作品の魅力です。

おすすめ代表作3選

葉山嘉樹のおすすめ代表作を3作ご紹介します。怪奇小説もご紹介しますので、怪奇小説がお好きな方はご一読ください。

セメント樽の中の手紙

1926年(大正15年)に「文芸戦線」に発表された作品です。プロレタリア文学の先駆け的作品であり、名作の1つとして現代でも読み継がれています。1925年(大正14年)、葉山が巣鴨警察署から出所し、発電所の仕事をしていたときに書かれた作品で、「雪の降る廃屋に近い、土方飯場」にて1日で書き上げられたそうです。

簡単なあらすじは次の通りです。

毎日過酷なセメントあけ(セメントを樽からミキサーに移す作業)をしていた主人公・松戸与三は、ある日セメント樽の中に小さな箱を見つけます。その箱の中には布切れに包まれた1通の手紙が入っていました。どうやらその手紙は「ある女工」によって書かれたものらしく、その内容を読んだ与三は驚きを隠せません。「ある女工」が書き残した驚愕の内容とは・・・。

作品は、
1、松戸与三の労働状態
2、「ある女工」からの手紙の内容
3、松戸与三の新しい世界

の3つの場面で構成されています。葉山の作品らしく労働者の過酷な労働環境が描かれていますが、プロレタリア文学としてだけではなく、純文学としても描写的で豊かな作品です。
また、物語の主人公は実は松戸与三ではなく、手紙を残した「ある女工」であるといったような、さまざまな解釈がなされている作品です。

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海に生くる人々

1926年(大正15年)に、改造社から出版された長編小説です。1923年、名古屋刑務所に収監中に執筆されました。室蘭から横浜まで運行する、石炭船・万寿丸が舞台となっていて、葉山自身の体験をベースにして書かれた作品です。「セメント樽の中の手紙」とともに、プロレタリア文学の名作の1つとされています。

簡単なあらすじは次の通りです。

第一次世界大戦当時の好景気時代を背景に、好景気を支える過酷な労働者を描いています。世間は好景気に沸く一方、それを陰で支える下級船員たち。船内では資本主義の名の下に、作業員に対する労働の搾取が行われていました。ボーイ長が暴風雨によって怪我をしても手当てされず、船長はそのまま放置するような環境です。

過酷な労働条件に耐えられなくなった船員たちは、やがて階級意識に目覚め、ストライキを計画します。綿密に計画を立てて、ストライキに成功した船員たちでしたが、室蘭から横浜に到着すると、ストライキを計画していた指導者が連行されてしまいます・・・。

プロレタリア文学であると同時に、葉山の集団心理の描写の巧みさや、自然描写が鮮やかに描かれた作品です。この作品は、後の小林多喜二に強い影響を与えたとされています。

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死屍(しかばね)を食う男

1927年(昭和2年)、「新青年」に発表された怪奇小説です。「毎年一人ずつ中学校の生徒が溺死する湖」の紹介から物語は始まります。明治から大正にかけて中学校が立て続けに建てられ、寄宿舎の学生が減るなか、1つの部屋に深谷と安岡という学生がいました。深谷という男は一人が好きなようで、人嫌いで、人を避ける習性がある男です。

ある日「中学生が溺死する湖」で、言い伝え通り1人の中学生が溺死します。その日を境に、深谷が深夜にムクリと起き出し、どこかへ出て行くようになりました。不審に思った安岡は勇気を振り絞り深谷を追いかけます。追いかけた先に見た深谷の驚愕の行動に安岡は気絶してしまいます。果たして、安岡が見た深谷の正体とは?。

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まとめ

いかがでしたか?今回は葉山嘉樹の作品の特徴とおすすめ作品をご紹介しました。プロレタリア作家として地位を築いた葉山ですが、今回ご紹介した「死屍を食う男」のような、いわゆる怪奇小説も残しています。「セメント樽の中の手紙」と同様にとても短い作品ですが、葉山の感性が持つホラーな部分が味わえる作品だと思います。こちらも青空文庫などで手軽に読めますので、ぜひ見つけて読んでみてください。

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>>葉山嘉樹ってどんな人?その生涯や妻は?性格を物語るエピソードや死因は?

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