里見弴の作品の特徴及び評価。おすすめ代表作5選

出典:[amazon]里見〓(とん)伝―「馬鹿正直」の人生

人情味とまごころにあふれる作風で「小説の小さん」と呼ばれ愛された里見弴。「小さん」とは落語史上に名を残す名人のことです。名人芸とも言われる絶妙な会話と、情緒豊かで人間愛に満ちた作品は今でも読者に優しい気持ちを抱かせ続けています。

また、里見弴は小津安二郎を始めとする、映画界や演劇界の業界人とも仲が良く、映画化・演劇化された作品もいくつもあります。

そんな里見弴の作品にはどのようなものがあるのでしょうか。今回は里見弴の作品の特徴やおすすめ代表作をご紹介します。

里見弴の作品の特徴及び評価について

里見弴の源流には、少年の頃親しくしていた泉鏡花の流麗な文体と、自身も立ち上げに携わった雑誌「白樺」があります。「白樺」の執筆者たちは学習院の縁のある人物たちで構成され、雑誌には人道主義的で個人主義的なロマン溢れる作品が多数掲載されました。

里見弴の作品にも元々所属していた白樺派の特徴である人道主義がしっかりと表現されています。しかしそれだけでなく、芸者と結婚をしたり、映画界や演劇界の人物たちと親しくするなど、幅広い交友関係を持っていたため、人間の心の機微を描くことが非常に得意な作家でもありました。軽妙な会話文にも定評があり、映画監督の小津安二郎は日記で彼の文章に触れ「会話のうまみにほとほと頭が下る」と書いているほどです。

多情を良しとし、政治思想・社会思想を真っ向から否定、自らの感性のままに生きることを全肯定した作家でもあり、その点も評価をされています。信条として「まごころ哲学」を掲げていました。読後、他人や自分を信じ、助け合いたくなる優しい作品が多いと言われています。

戦前の菊池寛賞の受賞者であり、また戦後には二度、読売文学賞を受賞しています。

里見弴おすすめ代表作5選

里見弴のおすすめ作品をご紹介します。映画原作、実際の事件を元にしたものなど、幅広いジャンルのものを集めてみましたので、きっとお気に入りの一作が見つかると思いますよ。

恋ごころ

19563年、読売文学賞を受賞した短編集で、里見弴の代表作の一つです。

表題作は、少年の日に訪れた東北の街で、いとこの女の子になんともいえないむずがゆくも幸せな気持ちを抱いたことを後々思い出して「あれは恋だ」と振り返る物語。里見弴は盛岡にある親戚の家の養子として籍を入れていますから、自分の体験を活かした小説であるとも言えるでしょう。

他にも同じく芸者と結婚した自分の経験を活かした花柳界の物語なども収録されています。どれも人間の心の機微を優しく鮮やかに描いています。大きな事件は起こりませんが、だからこそ日常に即した感情移入しやすい短編が多く、楽しんで読むことができるでしょう。里見弴の入門におすすめの一冊です。

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彼岸花

1958年の作品。日本映画界の重鎮であり、里見弴の友人でもあった映画監督、小津安二郎から「ぜひ里見さんの原作で映画を作りたい」と頼まれ、映画化前提で書き下ろした異色の作品です。

結婚適齢期である3人の女性、彼女たちと意見が合わずなかなか上手くいかない親たちを描き、家庭というものの繊細さと愛しさを表現しています。人情味溢れる物語を得意とした里見弴の作風がよく表れた作品と言えるでしょう。

美しく繊細な日本の情景を撮る小津の感性が見事に融合し、完成した映画は複数の受賞を果たしました。

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安城家の兄弟

1927~1929年にかけて発表された長編作品です。上・中・下の三部構成で、自伝的な意味合いの強い作品だと言われています。

兄である有島武郎が1923年に心中し、そのいきさつや、それについての里見弴の思いなどが間接的に綴られているため、伝記や人物についての随筆が好きな方にも面白く読むことができるのではないでしょうか。当時のことが詳細に描写されているため、有島武郎について研究している方にもよく読まれている作品です。

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極楽とんぼ

1961年の作品です。75歳で大往生した女好きのおじいさんの一生をユーモアたっぷりに描いた楽しい作品で、「まるで落語のよう」と言われ、その鮮やかな語り口に今でも高い評価を得ています。

この作品を書いた時、里見弴自身、70歳を超えていました。老いてなお全く衰えることのない軽妙な文体が特徴で、この作品で「小説家の小さん」の呼び名を確立したと言っても過言ではありません。楽しい物語を読みたい時、おすすめしたい1冊です。

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多情仏心

1922年~1923年に渡って連載されていた長編小説です。「誠実さ」「真心をこめること」「心からしたいことをすること」を大切にし、色々な女性を愛し、また色々な女性に愛された一人の男の生涯を描いています。

初期の作品ながら、里見弴の「まごころ哲学」の集大成とも言われています。戦前、最も文化の華やかだった時代に書かれたものであるだけに、大正時代のさまざまな風俗もリアルに描かれていて、当時の文化を知りたい方にも良い作品です。

「まごころ」を大切にしすぎるため、ストーリー展開にはややダイナミックすぎる面も見られますが、そこも豊かな人間性の一つとして愛されています。

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まとめ

いかがでしたか?今回は里見弴の作品の特徴やおすすめ作品をご紹介しました。里見弴は生涯を通じて人間を愛し、豊かな感性で心の機微を描いた作家でした。

人情作品やユーモアたっぷりの落語のような作品が多いため、一時期「通俗的すぎる」など批判もありましたが、その人間味溢れる作品を愛する人々が多かったのも事実です。

小津安二郎を始めとし、映画や演劇など、小説という媒体を飛び越えた先でも里見弴の作品の本質は根付いています。

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>>里見弴ってどんな人?その生涯は?性格を物語る逸話や死因は?

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