有島武郎の作品の特徴及び評価。おすすめ代表作5選

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有島武郎という作家をご存知ですか?学生時代の国語の授業で少し習ったけど、作品自体は読んだことがない人が意外に多いのではないでしょうか。有島武郎は明治時代に生まれ、「白樺派」に所属しながら多くの名作を残した日本を代表する作家です。同時代には、物理学者で評論家の寺田寅彦や、画家の鏑木清方、永井荷風などがいます。今回紹介する作品は有島武郎の中でも名著とされており、時代を超えて読み継がれる作品ばかりです。

今回は有島武郎の作品の特徴や評価と、おすすめ代表作をご紹介します。

作品の特徴と評価

有島武郎は武者小路実篤や志賀直哉とともに雑誌「白樺(しらかば)」に参加しました。同人雑誌「白樺」は1910年に創刊され、1923年に廃刊となるまで全160冊を刊行しています。この雑誌に投稿していた作家は「白樺派」と呼ばれ、有島武郎と上記2人以外にも柳宗悦、倉田百三、武郎の弟の生馬(いくま)など多くの作家が参加しています。「白樺派」は当時の文学界で主流となり、その特徴は、主に人道主義、理想主義や個性主義を掲げた作品が多い点にあります。また、ロシアの文豪トルストイの思想に大きな影響を受けているのも特徴の一つです。(※人道主義とは、人類がより幸福になるためにつくし、道徳の再興を目指しながら常に利他的であろうとすることです)

また雑誌「白樺」は文学だけではなく、彫刻家のロダンや、セザンヌ、マティスなど当時の最先端の海外芸術作品も発信していたため、流行の最先端を紹介する雑誌であったとも言えます。有島武郎は10年「白樺」に参加しましたが、1年間で3作ほどのペースで作品を発表していたため、多くの作品を残しました。その作品のいくつかは映画化されていて、2007年に作成された「カインの末裔」が国際ベルリン映画祭で上演され大盛況となるなど、今もなお大きな影響を及ぼしています。

有島武郎の代表作5選

有島武郎の代表作をご紹介します。どの作品もとても心に訴えかける名作です。作品自体はそれほど長編ではないので、ぜひ一度読んでみてください。

「或る女」

雑誌「白樺」の創刊と同時に「或る女のグリンプス」として連載されたのち、加筆され「或る女」として出版されました。25歳の才女、早月葉子の波乱の人生を描いた物語です。早月のモデルとなった女性は国木田独歩の最初の妻・佐々城信子で、もう1人の登場人物である木部のモデルは国木田独歩とされています。モデル小説の代表作ですが、発表当初はそれほど評価されませんでした。この作品が評価されたのは、さまざまな価値観が受け入れられるようになった戦後からで、戦後は純文学として評価されるようになりました。

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「カインの末裔(まつえい)」

カインとは旧約聖書「創世記」に出てくる登場人物です。「カインの末裔」は、雑誌「新小説」で1917年に発表されました。この作品によって、有島武郎は自身の文学者としての地位を確立しました。無知で野生的な小作人である仁右衛門(にえもん)は、北海道の自然の中でたくましく懸命に生きようとしますが、多くの障害に打ちのめされるという無情な生活を描いた作品です。仁右衛門に対する無情な姿が、旧約聖書の「カインの物語」と重ねて描かれています。

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「一房の葡萄(ぶどう)」

1920年に発表された小説(童話集)です。全4篇となっています。非常に短い作品で読みやすく、有島武郎の作品を読むにあたり最初の1冊目として良い作品です。有島武郎が横浜ですごした幼少時代の経験をもとに執筆されました。有島武郎の唯一の創作童話で、装幀(そうてい)や挿絵も有島自信が担当しました。

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「惜しみなく愛は奪う」

1917年に発表された評論です。有島武郎の思想を知る上で欠かすことのできない作品です。この中で有島武郎は、自身の内面的思想を赤裸々に語っています。人間的自由の獲得について、キリスト教的人道主義の視点で語り、他者への愛と自身のエゴイズム(自己愛)の間でもがき苦しみながらも、それを乗り越える道を模索する評論文です。

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「生れ出づる悩み」

1918年に新聞連載された小説です。有島武郎の創作意欲がもっとも旺盛だった頃の作品で、この作品からは実験的な印象を受けると同時に、淡々と語られる場面転換が、まるで映画を見ているような映像的な作品です。

物語の語り手である「私」が、札幌に住んでいた頃に親しかった「君」と10年ぶりに再開し、「君」の生活の苦悩や生きる姿を描く物語です。漁師となった「君」は画家になることを心から夢見ています。一方、作家である「私」は自分の才能を信じ切れない、もどかしさを抱えています。「私」と「君」の間にある心理的な隔たりが、物語に精神的な深みを与えています。この作品に出てくる「君」のモデルは、漁師であり画家でもあった木田金次郎とされています。

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まとめ

いかがでしたか?今回は有島武郎の作品の特徴と、おすすめ作品をご紹介しました。有島武郎の作品は、社会的風潮と自身の内面との葛藤を繊細に描写した優れた作品が多くみられます。その作品の普遍性は現代にも通じるものがあり、今もなお多くの読者に愛されています。短い作品や、童話なども書いていますので、純文学が苦手な方でも読みやすい作品も残あるかと思います。この記事を機会に、ぜひ有島武郎の世界に触れてみてはいかがでしょうか。

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>>有島武郎ってどんな人?その生涯や家族・子孫は?死因は?

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