徳田秋声の作品の特徴及び評価。おすすめ代表作4選

出典:[amazon]徳田秋声 名作全集: 日本文学作品全集(電子版) (徳田秋声文学研究会)

徳田秋声は、自然主義文学の代表的な作家として、明治~昭和時代に活躍しました。貧しく病弱な幼少期を乗り越え尾崎紅葉の門下に入り、その後は時流にも乗りつつ、様々な作品を発表していきました。今回は、徳田秋声の作品の特徴や評価、おすすめ代表作をご紹介します。

徳田秋声の作品の特徴及び評価

ここでは徳田秋声の作品の特徴や評価についてみていきます。

徳田秋声の作品の特徴

徳田秋声は、自然主義文学の代表作家として名高く、島崎藤村や田山花袋とともに明治~昭和時代に活躍しました。徳田の作品の特徴は、現実的な日常の描写を、静かに見つめ、飾り気なく描き出す点で、自然主義的技法の完成者とも呼ばれています。しばしば読み手が混乱してしまいますが、時間の巻き戻しが頻繁におこる独特の文章が特徴の作品も多いです。

徳田秋声の作品の評価

徳田秋声は時代の波にも乗り、数多くの作品を世に出しました。初期は日露戦争後の自然主義文学の流行の波に加え、自身の才能もあって評価をのばします。

自然主義を取り入れた作品の第一作目が中編『新世帯』で、短篇集『秋聲集』により、短編作家としても実力を示しました。そして『黴』と『足迹』によって島崎藤村や田山花袋とともに自然主義文学の担い手としての地位を築きました。この頃生田長江が、冷笑や感激もなく世相の一端を切り取って、真実を伝えている様を評価して「生れたる自然派」と称しています。

他の著名人からの評価も高く、夏目漱石は『あらくれ』について、現実の描写の裏にフィロソフィーがないと批判しつつも、「何処をつかまへても嘘らしくない」「現実味はこれかと思はせられる」と言っています。また、小林秀雄は、批評家として『仮想人物』という作品の急所を見つけようとしたものの見つからなかったと評価し、川端康成は森鴎外や夏目漱石よりも素晴らしいと絶賛していました。

また、山田順子とのいざこざを機に筆がとまった時期もありましたが、井伏鱒二などが「秋声会」を結成し、秋声会の機関誌「あらくれ」を創刊、島崎藤村の提唱で「徳田秋声後援会」が組織されるなど周囲から手厚い応援がなされたことからも、文壇での人気や評価の高さがうかがえます。

復活後も『勲章』が文芸懇話会賞を、『仮想人物』が菊池寛賞を受賞するなど高く評価されました。

徳田秋声のおすすめ代表作4選

徳田秋声のおすすめ代表作を紹介します。徳田秋声は数多くの作品を世に出しましたが、以下の5作がとくに有名で、どれも徳田秋声の特徴をあらわしている作品です。

徳田秋声自身と妻の関係がモデルと言われる私小説です。
小説家の笹村が主人公で、お銀という家事手伝いの女性と流れで関係することになり、子どもが出来て籍を入れます。とはいえ笹村のお銀への態度は冷淡なもので、理不尽な暴言を吐いたり、喧嘩を繰り返したり。離婚には至らないものの、消極的な関係の淡々とした日々が描かれ、黴臭い湿気のある雰囲気が作品全体に漂っている賛否両論ある作品です。

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あらくれ

お島という勝ち気な女性が主人公で、彼女の生き様を描いた作品です。実の母に疎まれ裕福な家の養女として育てられたお島でしたが、嫌悪する相手との縁談の話を拒否し、家を飛び出します。貧しい実家に戻って別の男と結婚したものの、相手の浮気で別れ、さらに別の男を頼って洋服屋をやろうとするものの、上手くいかず…。

人生の岐路に立つたび、周囲の意見に背いてでも自分で決めて選びとろうとするお島ですが、何度も自分の意志を貫くことで不幸な道へと入ってしまいます。それでも人生を疾走していく様が淡々と描かれて、お島の人生の続きが気になり、次々と読み進めてしまう魅力のある作品です。
この作品は1957年に映画化、1961年には主演が森光子でドラマ化されています。

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仮想人物

長年連れ添った妻をなくした中年作家である庸三は、関東大震災直後の近代化のなかで激変していく東京で、娯楽に身を任せる若い女性・葉子にひかれます。庸三は葉子との関係を通して、時代の変化に乗り遅れないようついていきますが、葉子には別の男性が現れてしまいます。

仮の姿をまとわなければ生きていけなかった中年男の葛藤や不器用さが描かれており、仮装した自分としていない自分、どちらが本当か分からなくなるという戸惑いがあらわれています。徳田秋声は山田順子との関係について「順子もの」として作品を出していましたが、その集大成といえるのがこの作品で、徳田自身の葛藤が読み取れるでしょう。

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縮図

貧しさのために芸者屋に売られた銀子は、人気芸者として愛する医者に身請けしてもらうことを夢見ていますが、願いは叶いませんでした。嫌悪している芸者屋の主人から言い寄られてしまったため実家より買い戻してもらい、大金持ちの男に見初められますが、結婚はみとめられず…。その後も重い病にかかったり、妹をなくしたりといった悲劇を経験し、再び芸者の道へ戻り懸命に生きていきます。

『縮図』は徳田秋声最後の作品です。太平洋戦争開戦目前に執筆が開始されましたが、芸者屋を題材にした内容であったため、新聞の連載は中止され、完成することなく徳田は亡くなってしまいました。未完の作品ですが、1953年に映画化されています。

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まとめ

自然主義文学の代表作家として、評価の高い徳田秋声。そこまで有名ではないのが不思議ですが、徳田秋声自身の生き様や当時の女性の生き方など興味深く知ることができる作品は味わい深いものがありますね。徳田秋声の作品はあおぞら文庫や電子書籍でも読めるので、一度気軽によんでみてはいかがでしょうか?

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>>徳田秋声ってどんな人?その生涯・子孫は?性格を物語る逸話や死因は?

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