イワン・ツルゲーネフの作品の特徴及び評価。おすすめ代表作4選

出典:[amazon]ツルゲーネフ作品集

貴族出身のロシアの文豪イワン・ツルゲーネフ(1818-1883)。「ツルゲーネフの代表作は?」と問われれば、二葉亭四迷が訳した「あひびき」や「めぐりあひ」などを思い起こす方も多いでしょう。
今回は、イワン・ツルゲーネフの作品の特徴、その評価について、代表作も含め、詳しくご紹介していきます。

イワン・ツルゲーネフの作品の特徴及び評価

イワン・ツルゲーネフは大地主の母と貴族の血を引く父の元に生まれました。母は特に農奴に対して冷酷な女地主であり、ツルゲーネフは幼少期から母の農奴への態度に特に違和感を覚えていたようです。そのことが後のツルゲーネフの作品作りに大きな影響を及ぼすことになります。

イワン・ツルゲーネフの作品の特徴

ツルゲーネフの作品の特徴は、まず描写が実に美しいことが挙げられます。ロシア文学というと重々しい空気、どこまでも白い大地と冬将軍についてばかりの記述が目立ちますが、ツルゲーネフの作品にはあまり登場しません。むしろ、ロシアの大地の美しさが芸術的に描かれており、読み手の心を見事につかむことに成功しているのです。これは、ツルゲーネフが長く国外生活を送っている中で、ロシアの美しい景色を思い出しながら執筆に当たっていたことも少なからず影響しているでしょう。

また、ツルゲーネフの作品には必ず恋愛要素が登場します。恋愛要素というよりも、恋愛小説的な読み方もできる作品に仕上がっているといった方が適切でしょう。ロシアの社会情勢を描き、批判しつつも、そこで生き抜く若者たちの恋愛を見事に絡めて作品にしているのです。そのため、ツルゲーネフの作品は社会批判小説でありながら気負わず読めると愛読家も多いのです。

こうした恋愛や自然描写といった要素をふんだんに取り入れながら、厳しく社会批判するというのがツルゲーネフスタイルです。

イワン・ツルゲーネフの作品の評価

ツルゲーネフの作品はロシア文学の中でも比較的読みやすいものが多いせいか、愛読家は多いです。特に日本では、二葉亭四迷によって明治時代から早くも紹介されていたこともあり、ツルゲーネフ作品の方がトルストイの作品よりも有名だったこともあったようです。

ツルゲーネフは恋愛や自然描写で巧みなオブラートを作り、社会への厳しすぎる批判を隠していましたが、農奴制批判は当局の注目を集めてしまいます。特に初期作品である「猟人日記」発表後は投獄されたり、軟禁されたりと自由を奪われた生活を強いられました。
その反面で、農奴制という当時のロシア国民が特に気にかけていた内容は、農奴を始めとした国民に広く受け入れられ、人気を博しました。

しかし、同時代の作家であるトルストイは、ツルゲーネフ作品は表面的すぎると批判していたこともあったようです。これは、ツルゲーネフが故国ロシアを長く離れ、文筆活動をパリで行っていたことも一因となったようです。激動のロシアを肌身で感じていない、客観的すぎる内容であるというのが大作家のお眼鏡にかなわなかったようです。

イワン・ツルゲーネフの代表作4選

ここでは、ツルゲーネフの代表作を4つ厳選してご紹介していきます。

「猟人日記」(1852)

ツルゲーネフが29歳の時に発表した短編集です。
農奴制を厳しく批判した内容で、25の短編から成っています。

ロシアの当時の農奴制、その中で必死に生きる農奴たち、やりたい放題の貴族たちの交流が如実に描き出されています。

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「初恋」(1860)

「初恋」は色男であったツルゲーネフの半自伝的作品です。

16歳の貴族青年が、隣に住む年上の令嬢に恋をしますが、相手はまったく見向きもしません。さらにその恋の相手が青年の実父であるという衝撃の展開は、まさにツルゲーネフと初恋の相手、女ったらしだった父との三角関係を描いたものなのです。

ただの恋愛小説としてはなかなか面白く、楽しめます。しかし、この主人公がツルゲーネフその人だったらと考えると、なかなか衝撃的な作品として読みごたえもあり、印象に残ります。

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「父と子」(1862)

ツルゲーネフの最高傑作とも言われる作品。「ニヒリズム」という言葉が生まれた作品としても知られています。

旧貴族然としている父親世代と、それに反発する子世代の摩擦を描き出した作品です。当時の世の中、特にロシアでは伝統的な貴族生活を営んでいくことが何よりも大切で、家長の父が絶対的な権力を持っていました。しかし、西欧文化にも触れる機会が増えた子世代は、ロシア貴族に根強く残る伝統に疑問を抱き、反発します。

当時のロシア文学では、ロシア貴族の文化に真っ向から反抗していく登場人物が描かれることはまずありませんでした。それだけに衝撃的な作品とも言われています。

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「処女地」(1877)

この作品は、ロシアで起こったナロードニキ運動を描いたものです。

幼少期から農奴の扱い、農奴の生活を間近で見て育ったツルゲーネフにとってナロードニキ運動は応援したいものでした。しかし当時パリにいたツルゲーネフはロシアで起こるナロードニキ運動を傍観していただけで、その内実を深く知ることはできなかったといいます。そのため、小説で描かれるナロードニキ運動の様子がどこかズレていると、当時のロシア社会ではあまり受け入れられなかったそうです。

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まとめ

優雅な表現と芸術的な描写が美しいツルゲーネフの作品は、一見すると美しさで内容がオブラートされているように思えますが、内容はかなり突っ込んで当時のロシア社会を批判しているものが多いです。社会批判がメインの小説は内容も重く、読みにくいものが多いように思えますが、ツルゲーネフの作品は必ず恋愛が入ってくれるので比較的読みやすいことでも知られています。題名だけを見て、「これはちょっと重そう」とツルゲーネフ作品を避けてこられた方もぜひこの機会にツルゲーネフを読んでみてはいかがでしょうか。

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>>イワン・ツルゲーネフってどんな人?その生涯は?性格を物語るエピソードや死因は?

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