井上靖の作品の特徴や評価。おすすめ代表作5選

出典:[amazon]井上靖―わが一期一会 (人間の記録)

20世紀後半における中間小説の代表者であった井上靖。その執筆ジャンルは幅広く、歴史小説や中国を題材にした作品、自伝的私小説、詩集などさまざまな作品を発表しました。小説家となったのは遅かったものの、発表した作品はどれも高く評価され、ノーベル文学賞ノミネートの常連となりました。「上質な大衆小説」といわれる井上靖の作品にはどのようなものがあるのでしょうか。今回は井上靖の作品の特徴や、数多くある名作のなかからおすすめ作品を5つご紹介します。

井上靖の作品の特徴や評価

井上靖の作品の特徴は大きく3つに分けられます。1つは1950年代の作品にみられる「中間小説」という分野です。中間小説とは恋愛や社会を背景にした、純文学と大衆小説の間の文学を指します。「闘牛」や「猟銃」といった作品がまさに中間小説の代表であり、井上靖の作品は「上質な大衆文学」と評されています。

2つ目は、1960年代に執筆した中央アジアを舞台とする「西域もの」や、歴史小説の分野です。とくに、中国を舞台にした「敦煌」や「桜蘭」などの作品は大きな評価を得ています。他にも日本の歴史小説として「風林火山」や「真田軍記」があり、豊かな表現力と情緒的な文体は多くのファンを獲得しました。

3つ目は、「しろばんば」、「夏草冬濤」、「北の海」などの、井上靖の自伝的3部作として知られる作品です。主人公・洪作を通して井上靖の幼少時代から青年期までの心の成長や葛藤が、いきいきと表現されています。

40代から本格的な作家活動に入り文壇でのデビューは遅かったものの、文藝春秋読者賞や毎日芸術賞、菊池寛賞、野間文芸賞(2回)など、井上靖の作品はかずかずの賞を受賞しています。

1981年にはノーベル文学賞の候補になるなど、まさに日本が世界に誇る作家として井上作品は今日も多くの読者に愛されています。ノーベル文学賞ノミネートについては、井上靖が存命中は定かではありませんでしたが、2020年(令和2)に1969年(昭和44)の候補者として名前が挙がっていたことが判明しています。

井上靖のおすすめ作品5選

井上靖のおすすめ作品を5つご紹介します。短編小説を読んでみたい方も、ゆっくりと腰を据えて長編小説を読んでみたい方にもうってつけの作品です。

風林火山

井上靖の歴史長編小説です。1953年(昭和28)の10月から12月にかけて「小説新潮」に連載されました。毎日新聞退社後に執筆した、初期の代表作と言われています。武田信玄に仕えた足軽大将の山本勘助を主人公とし、川中島の戦いまでを描きます。大変人気のある作品で、4度のテレビドラマ化がなされました。また2007年(平成19)には井上靖生誕100周年を記念して、NHKの大河ドラマにもなっています。

[amazon]風林火山 (新潮文庫)

[kindle版]風林火山(新潮文庫)

敦煌(とんこう)

雑誌「群像」に1951年(昭和26)の1月から5月号にかけて連載された作品です。敦煌文献の由来を主題としており、井上靖が執筆した「西域小説」の代表作です。この作品により井上靖は、毎日芸術賞を受賞しています。中国の北宋時代を舞台としており、科挙の最終試験に不合格となった主人公・趙行徳が西夏の文字が書かれた一枚の布切れを渡され、西夏文字を学ぶために西域を目指す物語です。

[amazon]敦煌 (新潮文庫)

[kindle版]敦煌(新潮文庫)

闘牛

1949年(昭和24)、雑誌「文學界」12月号に掲載された作品です。この作品により井上靖は、第22回芥川賞を受賞しました。このとき井上靖42歳でした。阪神間(はんしんかん)を舞台とし、戦後モダニズムの時代をテンポの良い文章で描いています。戦後の阪神間での人々の生活や雰囲気を味わえる作品です。タイトルの「闘牛」とは、戦後活躍したイベント・プロモーターの小谷正一が行った、西宮球場での闘牛大会がモデルとなっています。

井上靖と小谷正一は毎日新聞社の同期で、私生活でも交友がありました。

[amazon]猟銃・闘牛 (新潮文庫)

[kindle版]猟銃・闘牛(新潮文庫)

天平の甍(いらか)

1957年(昭和32)に「中央公論」に発表された歴史小説です。この作品により、芸術選奨を受賞しています。井上靖はこの作品を執筆後に訪中し、加筆訂正が加えられています。奈良時代の仏教をテーマとしており、中国から高僧を招くという使命を受けた、留学僧たちの物語です。天平年間の第9次遣唐使が唐に渡り、鑑真(がんじん)と運命の出会いを果たした若き僧侶たちに待ち受けていたものとは・・・。

[amazon]天平の甍 (新潮文庫)

[kindle版]天平の甍(新潮文庫)

しろばんば

井上靖の自伝的長編小説です。1960年(昭和35)、「主婦の友」に連載されました。井上靖が幼少時代に過ごした静岡での生活がベースとなっており、登場人物も実在の人物がモデルとなっています。のちに「続しろばんば」も執筆され、前編・後編として再編されました。「夏草冬濤(なつぐさふゆなみ)」と「北の海」に続く私小説3部作の1作目であり、「しろばんば」では、主人公・洪作と叔母のさき子や、おぬい婆さんとの触れ合いが語られます。

とても分かりやすい文章で、現在でも小学校の課題図書として指定されています。タイトルの「しろばんば」とは「雪虫」のことだそうです。

[amazon]しろばんば (新潮文庫)

[kindle版]しろばんば (新潮文庫)

まとめ

いかがでしたか?今回は井上靖の作品についてご紹介しました。どの作品も平易な文章でありながら、読む人の心をつかむその文体は、井上靖の文の巧さだと思います。今回ご紹介した作品以外にも、井上靖は優れた作品を多く残していますのでぜひこれを機会に一読してみてはいかがでしょうか。

👉[amazon]井上靖の本はこちら。

>>井上靖ってどんな人?その生涯は?性格を物語るエピソードや死因は?

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)