堀辰雄の作品の特徴及び評価。おすすめ代表作6選

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代表作「風立ちぬ」で知られる堀辰雄は、フランス文学を研究し、私小説の分野に新心理主義の技法を取り入れ独自の表現を開拓しました。また晩年には日本の古典文学を題材にした作品に取り組み、文学の可能性を追求した作家です。そこで今回は、堀辰雄の作品の特徴や評価を踏まえながら、おすすめ代表作をご紹介します。

堀辰雄の作品の特徴と評価

堀辰雄は芥川龍之介やフランス文学から影響を受け、とりわけ「新心理主義」の技法を取り入れた作風で知られています。「新心理主義」とは、フロイトの精神分析を元にしており、作者の意識の流れや心に浮かぶ言葉を分析し、深層心理を描く手法のことです。堀辰雄はフランス文学を好んで読みましたが、例えばマルセル・プルーストの「失われた時を求めて」などは、新心理主義の代表的作品と言えるでしょう。この作品の「長さ」は、まさしく意識(心)に浮かぶ現象を詳細に語ったことによります。そのほかに影響を受けたフランスの作家には、ジャン・コクトーやラディゲ、アポリネール、ボードレール、モーリヤックなどが挙げられます。

また晩年は日本の古典文学にも強い関心を持ち、なかでも平安時代の「王朝文学」を元にした作品を構想しました。それは単純に古典文学をリメイクするというものではなく、リルケやモーリヤックなどの海外文学の特徴と、日本の古典文学が持つ雰囲気や文体とを結びつける新しい試みでもありました。

こうした堀の作風に対して三島由紀夫は「独奏的なスタイル(文体)を持った作家である」と評価し、堀辰雄の文学的方向性については「小説からアクチュアリティーを完全に排除し、古典主義に近づこうとしている」と評価しています。

おすすめ代表作6選

堀辰雄の代表作6作をご紹介します。堀の恋愛小説はただの恋愛小説ではなく「哲学的な」恋愛小説と解釈する人もいますので、ぜひ読んでみてください。

聖家族

1930年(昭和5)、雑誌「改造」に掲載された作品です。1927年に命を絶った芥川の死の衝撃から生まれた作品と言われており、堀辰雄の初期の代表作です。冒頭の「死があたかも一つの季節を開いたかのようだった」が有名です。こうした心理描写は、ジャン・コクトーやラディゲの「ドルジェル伯の舞踏会」などの文体から影響を受けています。堀はこの作品を1週間で書き上げ、「私はこの作品を芥川先生の霊前に捧げたいと思う」という言葉を残しています。

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風立ちぬ

1936年(昭和11)に雑誌「改造」に掲載され、1938年に完成した堀辰雄をもっとも代表する作品です。「序曲」「春」「風立ちぬ」「冬」「死のかげの谷」の5章で構成され、堀辰雄の実体験を元に書かれました。タイトルの「風立ちぬ」はフランスの詩人ポール・ヴァレリーからの引用で、作中の「風立ちぬ、生きめやも」とは、「風が吹く、生きねばならぬ」を意味します。英語、フランス語、中国語に翻訳され、海外でも広く親しまれている作品です。また、2013年に公開されたジブリアニメ「風立ちぬ」では、堀辰雄がモデルの一人として描かれています。

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ルウベンスの偽画

1927年(昭和2)、雑誌「山繭」に掲載された堀辰雄の処女作です。のちに初の短編集「不器用な天使」に収録されました。21歳のころに軽井沢で過ごした実体験を元に書かれた作品で、ジャン・コクトーやラディゲ、アンドレ・ジッドなどの心理小説の影響がうかがえます。主人公の「彼」は堀自身で、その他の登場人物も実在の人物がモデルです。この作品を書き終えた堀は、すぐに芥川に作品を送りましたが、残念ながら「ルウベンスの偽画」は芥川が読んだ最後の堀の作品となってしまいました。

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かげろふの日記

1937年(昭和12)、雑誌「改造」に掲載された作品です。フランス文学のエッセンスを日本文学に取り込んだ堀辰雄ですが、さらに日本の古典文学と西洋的技法の融合を試みました。この作品は平安時代に書かれた「蜻蛉(かげろう)日記」を題材に、リルケ的視線を通して現代に蘇らせた作品としても知られています。

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菜穂子

堀辰雄が執筆した唯一の長編小説であり、堀辰雄の最高傑作と評される作品です。1934年(昭和9)に、作品の一部が雑誌「文藝春秋」に掲載され、1941(昭和16年)年に「菜穂子」として出版されました。この作品によって堀は第1回中央公論社文藝賞を受賞しています。この作品も実在の人物がモデルとなっており、とくに都築明は堀が弟子として可愛がった夭折の詩人・立原道造がモデルとされています。

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美しい村

1933年(昭和8)、大阪朝日新聞に掲載され、翌年に単行本として出版された堀辰雄の初期の代表作です。「序曲」「美しい村」「夏」「暗い道」の4章で構成されています。1931年にサナトリウムで読んだ、マルセル・プルーストの「失われた時を求めて」に影響を受けて書かれた作品です。また作品の構想は、堀が軽井沢での散歩途中にチェコスロバキア大使館の別荘から聞こえてきたバッハの音楽から得たといわれています。

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まとめ

今回は、堀辰雄の作品の特徴とおすすめ代表作をご紹介しました。堀辰雄の作品は、自身の経験を元にした私小説的恋愛小説が目立ちます。一方で晩年は、日本の古典文学を題材にした作品化も試みています。堀辰雄がもう少し生きていてくれたら、きっと新しい古典文学の解釈を読めたのではないかと残念に思います。今回ご紹介した作品はどれも名作ぞろいなので、ぜひ一度読んでみてください。

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